『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く 第2版』(現代数学社, 2025年7月)(ねこ本第2版)¶
『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く 第2版』(現代数学社, 2025年7月)のサポートページです。
第2版まえがき(抜粋)¶
本書は、現代物理学の根幹をなす『ゲージ場の量子論』の本格的な学習に先立ち、その土台となる相対論とゲージ場の古典論をコンパクトにまとめたガイドブックの改訂版です。幸いなことに、初版は多くの方に好意的に受け入れていただきました。
ゲージ場の量子論は、高エネルギー物理学から物性物理学まで、物理学のあらゆる分野の基礎となる壮大な理論体系です。しかし、そこでは多彩な抽象的概念が次々と現れるため、道しるべなしでの学習は困難を極めます。本書は、そうした広大な道に迷わないための地図でありコンパスとなることを目指しています。いきなり分厚い教科書に挑む前のウォームアップとして、あるいは計算に疲れたときに寝転んで気楽に全体を俯瞰するために、学生時代の自分が欲しかった一冊を想像しながら筆を進めました。
そのため本書は、一冊で完結する教科書とは趣を異にします。本格的な教科書では複数の巻にまたがって扱われるようなトピックを、「相対論とゲージ場の古典論」という一つのストーリーに沿って追い、大きな流れを掴めるように構成しました。
特に本書で強調したかったのは、なぜ理論がそのような形になっているのか、という「理論の作り方」です。与えられた運動方程式を上手に解くための腕を磨くことも大切なのですが、「そもそもなぜ運動方程式はこのような形をしているのか」という素朴な疑問に対する答えを知ることは、物理学を学ぶ上でとても重要です。そこで本書では「ちゃんとした理論を作るための理論」というメタ原理的観点のうち、ローレンツ不変性とゲージ不変性という2つの大きな柱を紹介することに注力しました。 これは理論物理学を学び始めた初学者の方々の疑問に答えるためのものだけでなく、最先端の研究現場で奮闘されている理論家、実験家の方々にとっても重要と考えています。というのも、未知の現象に対して「筋の良いモデル化」を行う能力は、物理学研究の最前線で常に要求されるからです。にもかかわらず、現代物理学を支えるメタ原理の元祖ともいえる、これら2つの不変性に基づく理論の構築方法は、高度な理論書で扱われることはあっても、初学者向けの入門書ではあまり触れられてきませんでした。
そのような背景から、実験家や実験家志望の学生さんを対象に集中講義を重ねる中で、このメタ原理的観点の教授法を模索してきました。特に「非慣性系におけるディラック・スピノル場」をテーマに各地で講義を行い、その過程でいただいたご意見を今回の改訂に反映させました。具体的には、以下のトピックを拡充しています。
- ディラック方程式をローレンツ群の表現という代数的な観点から眺めること、特にワイル・スピノルとの関係について (2.6節, 7.4節, 7.5節)
- 一般相対論の枠組みと、遠心力やコリオリ力といった慣性力との関係について (13.1節)
- 非可換ゲージ場として重力場や慣性力場を捉える視点とディラック・スピノルがどのように絡み合うかについて (13.2節)
- 回転系のテトラッドの計算について (13.3節)
高度な内容になるほど、いわゆる耳学問のように誰かから勘所を教えてもらえる機会は大変貴重になります。しかし、誰もがそうした環境に恵まれているわけではないでしょう。最先端の研究においても、「この辺りを掘り起こしてみるか」といった当たりをつける感覚が常に求められるように、学習においても「どこに何が書かれているか」を教えてくれる道しるべの存在は極めて大きいと実感しています。本書が読者の皆さんにとってそのような良きガイドとなれば幸いです。
しっかりノートを取りながら計算を丁寧にフォローしていく正統的な学習と並行して、本書を片手に複数の教材を横断的に俯瞰することで、勉強や研究のモチベーションを高めるといった使い方も大歓迎です。
目次¶
第1章 ガイドブックのガイド: 本書の (2+1) 本柱¶
1.1 電磁場中のディラック場のラグランジアン ... 1
1.2 2つの不変性はどこから? ... 3
1.3 源流は古典電磁気学 ... 4
1.4 スカラー、ベクトル、テンソル、スピノル ... 4
1.5 重力や慣性力とスピノル ... 5
1.6 本書の想定読者と構成 ... 6
第2章 ちゃんとした理論 I: 回転群からローレンツ群へ¶
2.1 特殊相対論として「ちゃんとした」理論 ... 9
2.2 2つの仮定とローレンツ変換 ... 10
2.3 この世に存在しうる「場」 ... 12
2.4 ローレンツ群の準備体操としての回転群 ... 16
2.5 3次元回転群とスカラー、ベクトル、テンソル、スピノル ... 26
2.6 4次元回転群とローレンツ群 ... 33
第3章 時空概念の変革 I: ユークリッドからミンコフスキーへ¶
3.1 ローレンツ変換 ... 39
3.2 ニュートン力学における相対性と絶対時間 ... 41
3.3 速度の合成則とラピディティ ... 42
3.4 ミンコフスキー時空 ... 44
3.5 線形変換で大切な2つの視点 ... 44
3.6 ミンコフスキー時空からローレンツ多様体へ ... 50
第4章 質点運動のレシピ¶
4.1 電磁場中の荷電粒子の運動 ... 53
4.2 解析力学の統一的視点を得る ... 55
4.3 解析力学による抽象化の必要性について ... 56
4.4 作用積分と変分原理 ... 58
4.5 解析力学の立場からニュートン力学を見直す ... 61
4.6 オイラー・ラグランジュ方程式の利点 ... 62
4.7 連続対称性と保存則 ... 64
4.8 ハミルトン形式の解析力学 ... 73
4.9 特殊相対論的粒子の作用とラグランジアン ... 74
4.10 特殊相対論的粒子のハミルトニアン ... 75
4.11 質点から場への拡張 ... 75
4.12 古典論から量子論への拡張 ... 76
第5章 質点から場へ¶
5.1 話の流れ ... 77
5.2 調和振動子の解析力学 ... 78
5.3 1次元連成振動子の固有振動 ... 80
5.4 固有モードへの分解と実対称行列の対角化 ... 81
5.5 1次元連成振動子のハミルトニアン ... 83
5.6 質点系の連続極限 ... 84
5.7 1次元波動方程式の固有振動とフーリエ変換 ... 86
5.8 場のハミルトニアン ... 87
5.9 相対論的場へ ... 90
第6章 多重線形写像と添え字の上げ下げ¶
6.1 電磁場のラグランジアン密度 ... 91
6.2 双対ベクトル空間の成分表示 ... 94
6.3 2変数関数から2階テンソルへ ... 95
6.4 1次変換としての2階テンソル ... 97
6.5 ユークリッド計量 ... 98
6.6 いわゆる「添え字の上げ下げ」 ... 99
6.7 4元ベクトルとミンコフスキー計量 ... 101
6.8 ローレンツ変換によるテンソルの変換性と縮約 ... 103
6.9 共変形式のマクスウェル方程式 ... 105
第7章 ディラック・スピノル¶
7.1 ディラック方程式 ... 107
7.2 ディラック・ハミルトニアン ... 111
7.3 パウリとディラック ... 112
7.4 ディラックからワイルへ ... 116
7.5 ワイルからディラックへ ... 118
第8章 ちゃんとした理論 II: モノとチカラのつなぎ方¶
8.1 局所 U(1) ゲージ対称性 ... 121
8.2 ゲージ原理へ ... 127
第9章 「ギョッとする」記法 ― 微小要素と線形写像の二面性 ―¶
9.1 2次元ユークリッド空間上の接空間とベクトル場 ... 129
9.2 2次元ユークリッド空間の余接空間と微分1形式 ... 133
9.3 3次元ユークリッド空間上の微分形式の外積とホッジ双対 ... 138
9.4 外積とホッジ双対の使用例 ... 140
9.5 微分形式の外微分 ... 141
9.6 微分形式の積分 ... 143
9.7 外微分が変数変換に対して不変であるワケ ... 145
9.8 ポアンカレの補題 ... 147
第10章 ミンコフスキー時空上の微分形式¶
10.1 4次元ミンコフスキー時空上の微分形式 ... 149
10.2 微分形式を用いたマクスウェル方程式 ... 150
10.3 電磁場のゲージ対称性と微分形式 ... 152
第11章 U(1) から SU(2) へ¶
11.1 U(1) から SU(2) へ ... 153
11.2 ヤン・ミルズ場の作用積分 ... 155
第12章 時空概念の変革 II: ミンコフスキーからリーマンへ¶
12.1 一般相対論への接し方の一例 ... 159
12.2 一般相対論の指導原理と数学表現 ... 161
12.3 特殊相対論から一般相対論への道 ... 162
12.4 一般相対論の数学的表現 ... 164
12.5 ベクトル・基底・一般座標変換 ... 165
12.6 平行移動・接続・曲率 ... 167
12.7 質点の運動方程式 ... 169
12.8 測地線方程式のニュートン極限 ... 170
12.9 アインシュタイン・ヒルベルト作用 ... 171
12.10 共変微分の非可換性とゲージ理論 ... 173
第13章 時空概念の変革 III: リーマンからカルタンへ¶
13.1 2次元極座標系のニュートン力学 ... 176
13.2 曲がった時空のディラック・スピノル場 ... 181
13.3 回転系のディラック方程式 ... 186
第14章 アインシュタイン生涯唯一の実験: 磁気回転効果への誘い¶
14.1 角運動量保存則と磁気回転効果 ... 195
14.2 角速度ベクトルはスピンにとって磁場のようなもの ... 196
14.3 現代物理学における磁気回転効果 ... 197
第15章 ゲージ場の量子論へのはるかなる道のり¶
15.1 全体のまとめ ... 199
15.2 ゲージ場の量子論への道 ... 201
15.3 高度な本への序章をチラ見 ... 202
15.4 微分形式を駆使する解析力学 ... 204
15.5 参考文献リスト ... 204